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ゼロが仮病で連日で休む訳にはいかない。 なにより、これを制作したのはロイドだということが判明した。 だから休む理由はもうない。 寝室のサイドテーブルの上に置かれた底の浅い籐の籠の中で、小さな布団に並んで眠る3人を見て、そう結論を出した。機械に睡眠が必要だとは思わないが、すやすやと気持ちよさそうに眠っている小さなものを起こすのは忍びないと、籠をそっと持ち上げると、そのまま引き出しの中に仕舞った。 ゼロが人形を持ち歩くわけにはいかない。かといって勝手に動き回って高い場所から落ちても困るし、これだけ小さいのだ、気づかず踏んでしまう可能性もある。 この見た目だ、ゼロの命を狙う侵入者に壊される可能性もある。 でも、引き出しの中で眠っていれば安全だ。 奪われる事も、失う事もない。 そのことに何故か安堵し、眠る3体を見下ろした。 皇帝は帽子を脱いで寝ているが、ちびゼロは仮面をつけたままだった。 「仮面ぐらい外して寝ればいいのに」 無意識の言葉に、口にした本人が驚いた。 ゼロらしくない言葉だ。 とはいえ、ゼロである自分もここでは仮面を外しているのだから、ちびゼロも外せばいいのだ。どうせその下にあるのは見知ったこの顔なのだから。 そう思っているはずなのに、何故だろう、とても心がざわめく。 その理由が分からないまま、洗面台の前に立った。 冷たい水で顔を洗ったあと、鏡を見る。 見知った顔、これがゼロの中身だ。 茶髪の、死んだ目の男が中身。 これが、ゼロ? 茶髪の死んだ目の男の顔がぐにゃりと歪み、ぐにゃぐにゃと人間とは思えない歪な形となった。僅かに茶色と肌色が分かるだけの形を成さないそれを見て、すぐに納得した。ああそうか、ゼロは象徴。仮面の下にいるのは人間ではない。世界を平和に導くための装置だ。どうしてそれを今まで人間だと思っていたのだろう? 寝室に戻ると、サイドテーブルが視界に入った。 音を立てないように注意しながら、引出しを開ける。 3人は先ほどと変わらず、すやすやと眠っていた。 「・・・いってきます」 引き出しを閉める直前、自然と出た言葉にまた驚く。 何を言っているんだと、頭を振った。 最近、自分で自分がわからなくなる。 こんな事では駄目だ。 昨日休んだ分を取り戻さなければならないのだ。 急がなければと仮面をかぶり扉を開けた時、引き出しから小さな音が聞こえていることにゼロは気づかなかった。 「ゼロ様、お帰りなさいませ」 午前の公務が終わり、食事のため戻ってきたゼロに、咲世子は深々と頭を下げた。ゼロの食事は、基本的に咲世子が作る。ゼロに安全な食事を食べてもらうため、ブラックリベリオンより前から部下だった咲世子が世話役となっているのだ。いつもはナナリーの執務室にも近い、窓のない専用の部屋で食事を取るのだが、今日はロイドとセシルが一緒にと言ってきたため、ナナリーに許可をもらい自室に戻ってきていた。 戻ったときにはすでにロイドとセシルが来ており、咲世子の料理が所狭しとテーブルの上に置かれていた。みれば小さなテーブルセットと食事も用意されている。 扉を厳重にロックし、仮面を外す。 彼らの前でだけは素顔を晒せる。息苦しさだけではなく、その思いもあるからか、仮面を外すと胸の重みが軽くなる気がした。それは彼らも同じなのか、仮面を外すと彼らの顔が緩んだように見えた。 差し出された手に仮面とマントを預ける。 彼女はゼロの影武者でもあるから、手渡すことにためらいもない。 席につくと、ロイドがジロジロとこちらを見た。 「あれぇ?-----、あの方たちは?」 「あの方たち?」 「--------と、-----------と・・・ああ、きみ風に言うなら皇帝とちびゼロと眼帯だったっけ?君が連れて歩いているんでしょ?」 それでどこに?あの方たちが入れる場所なんてその服にあったっけ?と、いわれて、ああ、と思い出す。 「そういえば、片付けたままだったな」 忘れていたと席をたつと、驚きの声が上がった。 「片付け、た?」 「え?-------、どういう事?」 そんなに目を見開いて驚くことだろうか? 「あれを持って歩くわけにも行かない」 「え?ちょっと待って、そんなモノみたいに片付けたって・・・」 「ロイドさん、その話は後!で、-------、どこに片付けたのかしら?」 困惑した顔のロイドを叱りつけ、どこか怒ったような顔でセシルが聞いた。彼女がこんな顔をすることは非常に珍しい。どうやらアレの取り扱いを間違えたようだ。動力が太陽光で、暗いところに片付けてはいけなかったのかもしれない。 「寝室のサイドテーブルの引き出しに・・・」 そう聞くが早いか、咲世子が駆け出していた。あの咲世子が駆け出すなんて珍しい。セシルとドイドも続いて寝室に向かった。それでなくても皇帝と眼帯は故障していたのだ。扱い方を聞いておくべきだったなと反省し、寝室に向うと、三人はサイドテーブルから離れ、何やら探しているようだった。床に手をつき、ベッドの下を覗き込むセシル。サイドテーブルを移動させ、裏を調べるロイド。咲世子は部屋全体を手早く調べていた。 「何をしているんだ?」 「何って、わからないかなぁ!?いないんですよ、お三方が!」 焦ったようにロイドが言った。 |